飲食業における税務調査について飲食業の創業に数多く立ち会った税理士が解説。

2021/10/11

2021/10/12

この記事の監修

フィンテリックス総合会計事務所 代表税理士岡 明弘

1972年2月生まれ/香川県高松市出身/慶應義塾大学卒業
元金融機関出身で銀行勤務時は、法人融資全般・決算書分析業務に携わる。日本政策金融公庫・信用金庫・信用組合との人脈を活かし様々な業種の創業融資・会社設立の支援、創業後の資金調達をサポート。

会社や個人事業主にとって、税務調査は免れることのできない事のひとつではないでしょうか?

コロナ禍が続いたため、税務署も動きがとれず、ここのところ税務調査自体の件数が少なくなっていると聞きます。ましてや、飲食業に税務調査が入るなんて想像がつかないと思います。

しかし、税務署はそんなに甘くありません。飲食業が元に戻れば、すぐさま、調査を開始することでしょう。今現在でも納税者に直接アプローチしていないだけで、銀行調査などを行って、あなたの資金の動きを注視しているかもしれません。

なぜ、飲食業の税務調査は突然行われるのか?

平成23年度税制改正において税務調査手続きの法定化がなされ、原則として国税当局が税務調査を行うためには、納税者に対して調査の事前通知を行う必要があります。同改正前においても、調査官は事務運営指針に基づき電話で調査を実施する旨の通知を行っていましたので、通知を行わない、すなわち、無予告で調査を行うという事態は、特殊なケースであるといえます。

では、なぜ、無予告で税務調査を税務署が行うのかというと、それはひとえに、飲食業が現金商売であるからというのは、容易に想像がつくと思います。

税務署にとって現金商売という業態は、売上が容易に除外できる、ゆえに正確な所得の把握が困難であり、真実の所得を把握するためには、「相手(納税者のことです。)に調査を行うことを悟られてはならない」=「無予告調査の実施」という図式になる訳です。

昨今では、現金での支払以外の決済手段、すなわち、クレジットカード、デビットカードをはじめとして、電子マネーやプリペイドカード、QR/バーコードなどによる決済が増えていることは、ご承知のことと思いますが、まだまだ、現金での支払も健在です。

このように現金決済が残っている間は、税務署のマインドが変わることはなく、引き続き無予告の税務調査が続くものと思われます。ようは、税務署はいわゆる「売り脱(売上を除外すること)」を疑っている訳です。

飲食業に対する税務調査の展開

調査対象の選定及び外観調査・内観調査

税務署は、やみくもに税務調査を実施している訳ではありません。申告内容の分析、過去の調査での問題点の分析及び、署内に保存されている各種資料・情報の検討のほか、外観調査、内観調査を実施し、最終的に税務調査に着手するか否かを判断しています。

外観調査とは、飲食店の立地状況・店舗の外観などの確認や客の入退状況の確認及び出前の有無の確認などを行うことをいいます。

内観調査とは、実際に調査官(もしくは同じ調査部門の他の調査官の場合もあります。)が飲食店に客として入店して、店内の配席や客の状況の確認、伝票類の使用状況、従業員の人数及び役割の把握するとともに、メニューの内容の把握や売れ筋などの把握、支払時のレジスターの使用状況(そもそもレジを打っているのかも含めて)確認することをいいます。客になりすまして、店内の様々な状況を把握して、これから始まる税務調査の検討材料にします。

臨場調査

調査着手

飲食店の調査は、ほとんどの場合、調査官が1人で調査することはありません。最低2人、事案の規模や内容によっては、税務署の調査部門担当だけでなく、他の調査部門の調査官が投入されたり、国税局の課税部資料調査課の総括主査、主査、実査官が出張ってきて税務署の調査官とともに(このような場合は国税局が調査を主導します。いわゆるリョウチョウ事案です。)調査を行います。もちろん、無予告での調査着手ですね。

現況調査

文字通り、在の状を確認する調査です。

納税義務者が保有するレジスター、パソコン、机、キャビネット、ロッカーなどを調査官が保存状況も含めて、調査官自らが保存場所で中身を確認する訳です。

これらの中には納税義務者が隠している真実の売上データや伝票、真実の仕入に係る納品書や簿外としている口座の通帳があるやもしれないということで、まず、中身を確保してから内容はじっくりと吟味するのです。

当然、その時には売上伝票、ジャーナルペーパーや売上日計表、現金出納帳の確保とともに現金監査を行います。現金監査は、調査着手時点の帳簿上の現金有高と実際の現金有高を確認して、不一致の有無を確認し、不一致の場合には、なぜ、実際の現金が多いのか、又は少ないのか、その理由を徹底的に追及することになります。

売上以外の項目では、人件費に関する書類・データの確保が優先されます。飲食業では、たくさんの人が雇用されたり、退職したりと人の出入りが頻繁なことから架空の人件費を計上するケースをときおり見聞きします。

税務署としては、現状の人事データや書類を確保することで架空人件費の有無や源泉所得税の徴収漏れ(例えば、1人の人間を2人いるようにして、源泉所得税を免れるなどがあります。)の有無を検討できる訳です。

また、飲食業では、売上だけを脱漏すると売上総利益率(いわゆる粗利率です。)が極端に低くなるため、材料仕入れも除外するケース(いわゆる両落ち:売上と仕入の方をとす。)もあるため、正規の仕入れ先以外の仕入先からの納品書・請求書の類も調査官は探しています。

帳簿調査

ひととおりの現況調査が終了したら、帳簿調査に移行します。これは、無予告調査の日ではなく、後日、今度は臨場する日にちを決めて、帳票類を納税義務者に揃えさせて行われます。

通常の税務調査ですので、ここでは説明を割愛させていただきます。

推計課税

売上等に係る帳票類やデータなどが何も把握できず、納税義務者からも何ら提出がない場合に税務署はどのような調査手法をとるのでしょうか?

「推計課税」という方法があります。売上金額や所得金額を推計計算によって認定するする訳です。

推計計算の典型例としては、売上等に比例して消費される仕入・経費等を把握し、その仕入・経費等の使用量・金額などから推定売上金額を合理的に算定した後、この推定売上金額に同規模類似業者の売上金額に対する平均的所得率を乗じて、推計の所得金額を算定するなどがあります。まあ、仕入や経費から売上を推計して、推計売上に類似同業者の所得率を乗じて推計の所得金額を計算するということですね。

しかしながら、推計課税を行うには、「内国法人(居住者)が対象であること」「更正もしくは決定する場合にのみ課税できる」「青色申告者には推計課税はできない」という要件をクリアしなければいけません。よって、青色申告者に対して推計課税を行う場合には、必ず、青色申告の承認取消を行う必要があります。

法人税法第131条(推計による更正又は決定)では

「税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合を除き、その内国法人(各連結事業年度の連結所得に対する法人税につき更正又は決定をする場合にあつては、連結子法人を含む。)の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準(更正をする場合にあつては、課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額)を推計して、これをすることができる。」(引用)法人税法|e-GOV法令検索

としており、財産や債務の増減による推計計算の方法も認めています。

税務調査の場面で、「御社は、同業他社に比べて粗利率が低い。平均にするには○○○○万円の修正申告をする必要がある。」などといって、乱暴な修正申告書の勧奨を行う調査官が極まれにいると聞いたことがありますが、これは推計課税でも何でもありませんので、くれぐれも、ご注意ください(応ずる必要は全くありません。)。

話しを無予告調査に戻しましょう。無予告での税務調査の際に帳票類や取引データなどが全くない、もしくは、ほとんど残っていないなどといった場合には、青色申告の承認取消が行われる恐れは大ですので、くれぐれも、日頃の記帳と書類整理が大切ですね。

まとめ

無予告の税務調査だからといって、何も恐れる必要はありませんが、日常的に正確な記帳がされていれば、「さぁ、どうぞと」と確認させればいいだけです。税務署が生の書類を見たいのは分からないわけではありませんが、納税義務者にも、その日の都合というものがあります。突然、税務署が入ってきたら、まずは税務調査に強い税理士にご連絡ください。

税務署には、今日のご予定を伝えて、税務調査を拒否する訳ではない旨、後日にして欲しい旨、そして、税理士に電話してください。

元税務署OB税理士、金融機関出身税理士が
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