税務調査の対象期間は5年分?7年分?
2021/9/27
2021/09/27
この記事の監修
フィンテリックス総合会計事務所 税理士中山 正幸
1955年12月生まれ/長崎県長崎市出身
国税局では主に国際税務・調査業務に携わる
平成27年税務署長に就任、翌年退官。
平成28年8月税理士登録
税務調査を受け、税務上の誤りが見つかった場合に何年分の修正申告書を提出(もしくは更正処分を受ける)し、納税をしなければならないのかご存じでしょうか?
答えは、「5年もしくは7年分の修正申告書を提出及び納税が発生する」になります。
会社や個人事業者が会計処理を行う場合には毎事業年度、同じルールで続けているのが普通だと思います。
そのため、調査対象事業年度において、何らかの誤り等が把握されると過去に遡って誤りを修正する(もしくは更正される)ことになるのです。
5年もしくは7年の修正申告(もしくは更正処分)をしなければならない根拠とは何でしょうか?今回は、その根拠法令について解説したいと思います。
税務調査手続について
5年もしくは7年の修正申告もしくは更正処分の根拠法令の解説の前に、税務調査手続きについて少し触れたいと思います。
税務調査や国税局が税務調査を行うには一部の例外を除き、納税者(会社や個人事業主など)に対して実地の調査を行う旨・調査を開始する日時・開始場所・調査対象となる税目・調査対象の課税期間などを事前通知をする必要があります。これらを税務調査手続きにおける事前通知(※1)といいます。
事前通知の際には調査の目的も通知することになっていますが、はっきりとした調査目的を通知することは絶対にありません。通常は「所得金額等が正しく計算されているか確認するため」としか通知しません。
調査対象の課税期間についても「とりあえず直近の1期(1年)分」や「とりあえず3期(3年分)」と通知してくる例が多いと思います。誰が通知する場合でも必ず「とりあえず」としか言いません。
これは、税務調査の途中から調査官が納税者に対して「調査対象の課税期間を更に遡及して〇〇年度まで遡及して調査する」と宣言すれば調査対象の課税期間の拡大が可能だからです。
このように税務調査の入り口である調査の事前通知では何年分の課税期間が調査の対象となるかは判らないというのが本当の所でしょう。
国税を賦課できる期間
国税の賦課をすることができる期間を賦課権の除斥期間といいます。国税庁の研修機関である税務大学校で使用する国税通則法の教科書(講本といいます。)を確認しますと除斥期間についての取り扱いは次のようになっています。
3年の除斥期間
課税標準申告書の提出を要する当該申告書の提出があったものに係る賦課決定(納付すべき税額を減少させるものを除く。)の除斥期間は3年である(通70①・「通」は国税通則法のこと。以下、「通」という。)。
5年の除斥期間
更正、決定及び賦課決定(前記⑴を除く。)の除斥期間については、原則5年である(通70①)。
7年の除斥期間
偽りその他の不正行為により、税額の全部若しくは還付を受けた国税についての更 正決定等又は偽りその他の右成の行為により、その課税期間において生じた純損失等の金額が過大である納税申告書を提出していた場合における当該純損失等の金額についての更正(次の⑷の適用を受けるものを除く。)の除斥期間は、7年である(通70④)。
10年の除斥期間
法人税に係る純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを増加させ、もしくは、減少させる更正又は当該金額があるものとする更正の除斥期間は、10年である(通70②)。
これら賦課権の除斥期間のうち、3年の除斥期間に該当する申告書はほとんど見当たらないため、これを除き、贈与税や移転価格税制など租税特別措置法(以下、「措」という。)により更正の期間制限を設けているものを加えて、更正の期間制限を整理すると次のようになります。
税 目 |
更正の期間制限 | ||
通常の過少申告・無申告の場合 | 偽りその他の不正行為がある場合 | ||
申告所得税 | 下記以外の申告所得税 | 5年(通70①一) | 7年(通70⑤) |
純損失等の金額に係る更正 | 5年(通70①一) | ||
国外転出等の特例がある場合の更正決定等 | 7年(通70⑤三) | ||
法人税 | 下記以外の法人税 | 5年(通70①一) | |
純損失等の金額に係る更正 | 10年(通70②) | ||
移転価格税制による更正 | 7年(措66の4) | ||
相続税 | 5年(通70①一) | ||
贈与税 | 6年(相続税法36①) | ||
消費税等 | 5年(通70①一) | ||
酒税 | 5年(通70①一) | ||
その他、印紙税、揮発油税、石油ガス税、たばこ税及びたばこ特別税等 | 5年(通70①一) |
<令和2年版図解国税通則法及び税務大学校令和2年国税通則法を参照>
このように見ていくと移転価格税制や贈与税などを除く通常の税務調査での更正の期限は5年であり、「偽りその他の不正行為」があった場合には更正の期限が7年になるということがわかります。
この「偽りその他の不正行為」とは、重加算税(通68)を課される行為であると理解しても、そんなに間違ってはいません。
重加算税は、過少申告加算税ないし無申告加算税の要件に該当し、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装していた場合に課される附帯税です。
いわゆる「売上除外」「架空仕入」「架空経費」などがその不正行為の代表例となります。もちろん、このような不正行為は許されることではありませんが、どのような場合に7年間の修正申告や更正処分を受けるのか、国税通則法の規定では明らかではありません。
あくまで、「偽りその他の不正行為」がある場合には7年間の修正申告の勧奨もしくは更正処分が可能であり、その行為が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装していた場合に重加算税が賦課されるという図式になります。
国会での附帯決議
ここで、中小企業など小規模法人や個人事業の調査において7年間の修正申告の勧奨もしくは更正処分となる場合の要件というものが問題になってきます。
国税通則法のなかに中小企業のための緩和措置などは当然ありませんが、昭和56年の税制改正で「偽りその他の不正行為」があった場合に国税の更正決定を遡及して処分できる期間を5年から7年に延長しましたが、その際、「今回の改正により延長された更正、決定等の制限期間における調査に当たつては、高額、かつ、悪質な脱税者に重点をおき、中小企業者を苦しめることのないよう特段の配慮をすること。」という附帯決議が全会一致でなされています(1981年4月24日衆議院大蔵委員会)。
この「調査に当たつては、高額、かつ、悪質な脱税者に重点をおき、中小企業者を苦しめることのないよう特段の配慮をすること。」という附帯決議は現在でも国税当局に守られているのでしょうか?
確かに平成が一桁年度のあたりでは国税局の先輩職員に「国会の附帯決議があるから7年間の課税を行う場合には決裁が必要」と言われて、5年でなく7年の課税を行う理由の決裁文書を作成した記憶がありますが、その後は特に決裁も無くなっていたと思います。
最近でも国会の財務金融委員会(※3)で国税通則法の第七十条の運用の問題について質問があり、税務調査は、主として高額、悪質な納税者に重点を置いて実施し、昭和56年の附帯決議の内容というのは尊重されているのかという質疑応答がされています。
同国会で国税当局は、「国税通則法七十条の規定で、税務署長が更正または決定をすることができる期限は、原則として法定申告期限から五年を経過する日とされておりますけれども、81年、昭和56年の税制改正によりまして、偽りその他不正の行為により税額を免れたり税額の還付を受けた者の更正・決定については、法定申告期限から7年を経過する日がその期限とされたところでございます。
また、その際につけられました附帯決議につきましても、承知をしているところでございます。
国税当局といたしましては、高額、悪質な納税者に重点を置いて税務調査を行っております。偽りその他不正の行為により税額を免れた者等につきましては、法令に則して7年前に遡及して更正・決定を行うなど、適正、公平な課税の実現に努めているところでございます。」と答えていますので、今でも昭和56年の附帯決議は生きているのでしょう。
高額、悪質な納税者に重点を置いて税務調査を行い、適正、公平な課税の実現に努めているのであれば、国税当局は「高額、悪質」の定義を明らかにするべきではないでしょうか?国会答弁のように「個別にわたる事柄についてお答えすることは差し控える」「一般論として申し上げます」といったことより、明確な基準を開示するほうが「適正、公平」といえるのでないかと思います。
いずれにしても、税務調査を受けた場合、原則は5年間の課税をされる可能性があり、偽りその他不正の行為があると7年間の追徴課税を受ける可能性があるというのが結論となります。
まとめ
税務調査で指摘される内容というものの大半はケアレスミスや思い込み、税の知識不足及び税の解釈誤りによるものです。なかには、重加算税の対象となる「仮装もしくは隠蔽行為」となるものもが発見されるかもしれません。
我々フィンテリックス総合会計事務所は日頃の巡回監査等を通じてお客様が税務調査を受けても指摘事項のない会計・税務を目指していますが、もし「仮装もしくは隠蔽行為」となるものを発見された場合には、まずは、お客様ととことん話し合い真実を把握いたします。 また、国税当局に課税の根拠となる証拠書類の特定を求め、課税の理由を徹底的に話し合います。不明点があった場合には必ず解決するまで納得しないことを信条とし、国税当局に適切な課税処分を求めます。
何をもって「偽りその他不正の行為」や「仮装もしくは隠蔽行為」とするのかという問題は、国税庁の事務運営指針や判例をもって解釈する必要があります。このテーマはこれだけでもボリュームがありますので、別の機会でご紹介したいと思います。
(※1)国税庁「税務手続きについて」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/02.pdf
(※2)国税庁 税務大学校・令和2年国税通則法講本P91~P92「第2節 賦課権の除斥期間」 https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/tuusoku/pdf/06.pdf#page=1
(※3)衆議院第190回国会・財務金融委員会第15号平成28年4月26日㈫http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigirokua.nsf/html/kaigirokua/009519020160426015.htm